あの「ゲーム理論」を生み出した天才数学者、ジョン・ナッシュの、苦悩と愛に満ちた半生を描く。
実話に基づいて制作された、2001年公開の映画。
今回は、映画『ビューティフル・マインド』の作品概要・あらすじ・ネタバレ・感想・補足をご紹介します。
このページの目次
『ビューティフル・マインド』の作品概要
上映日 | 2001年 |
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上映時間 | 136分 |
制作国 | アメリカ |
監督 | ロン・ハワード |
原作 | 『ビューティフル・マインド 天才数学者の絶望と奇跡』/シルヴィア・ナサー |
脚本 | アギヴァ・ゴールズマン |
音楽 | ジェームズ・ホーナー |
主題歌 | シャルロット・チャーチ「オール・ラヴ・キャン・ビー〜奇跡の愛」 |
出演 | ラッセル・クロウ/エド・ハリス/ジェニファー・コネリー/クリストファー・プラマー/ポール・ベタニー/アダム・ゴールドバーグ |
「ゲーム理論」などに代表される功績に基づき、ノーベル賞を受賞した数学者ジョン・ナッシュ。本作は彼の伝記に基づき、彼がまだ生存している間に制作・公開された。彼が大学院に進学してからノーベル賞を受賞するまでの半生が描かれる。
ナッシュの見ていた世界をありのままに描いた本作は、作品賞をはじめとした4部門でアカデミー賞を受賞、他4部門でもノミネートされる。
『ビューティフル・マインド』のあらすじ
主人公のジョン・ナッシュは、大学院でも変わり者として有名だ。周りが実績をあげる中、授業を休み、「独創的なアイデア」を探し続ける彼はなかなか論文を書き上げることができない。このままでは研究室に推薦できない、と言われていた彼だが、アダム・スミスの理論を覆す大発見をする。
晴れて研究室に配属になり、授業をしながら研究を続けるナッシュ。だが、彼の才能に目をつけた政府機関から暗号解読を依頼されるようになると、重圧から彼の精神は壊れていく。
登場人物紹介
ジョン・ナッシュ(ラッセル・クロウ)
天才数学者。後にノーベル賞を受賞する。
パーチャー(エド・ハリス)
政府機関からナッシュの元に派遣された人物。
アリシア・ナッシュ(ジェニファー・コネリー)
ナッシュの元教え子。後にナッシュと結婚する。
ローゼン医師(クリストファー・プラマー)
ナッシュの治療にあたった医者。
チャールズ(ポール・ベタニー)
ナッシュの元ルームメイト。
『ビューティフル・マインド』のネタバレ
変人ナッシュ、ルームメイトと出会う
ナッシュ(ラッセル・クロウ)は奨学生としてプリンストン大学の大学院の数学科に入学するが、その初日から周りに変人扱いされていた。ルームメイトのチャールズ(ポール・ベタニー)もナッシュをからかうが、お酒を飲みながら話すことで打ち解ける。
ナッシュは周囲を馬鹿にし、授業にも出なかった。「すべてを支配する真理を見出したい」と、ただひたすら研究に没頭する。周りが論文を書く中、テーマを見つけることができない自分に焦燥感を感じながらも、チャールズにそのたびに緊張を解きほぐされていた。
だが、成績が悪いナッシュは、教授に「どこへも推薦できない」と言われてしまう。その際に目に入ったレストランでは、たくさんの人がひとりの学者の元にペンを置いていた。「あの人は偉大な功績を残した。これはそれを称えている」と話す教授は、ナッシュに「まず何かやり遂げろ」と諭す。
部屋に戻ってガラスに頭を打ちつけるナッシュを救ったのもチャールズだった。「既存のルールなんか無視しろ」と机を窓から投げ捨てるチャールズと笑い合うことでナッシュは元気をもらう。
それからしばらく後のことだった。友人たちと話している最中、ナッシュは突然、新しい理論の着想を得る。この理論は、150年もの間、経済理論の王道として考えられていたアダム・スミスの理論を覆しうるものだった。この功績がきっかけで、ナッシュは希望する研究室への推薦を得た。
暗号解読の仕事
ソルとベンダーを連れて、晴れて希望する研究室に所属することができたナッシュ。相変わらず人当たりの悪いナッシュが面倒がりながらも授業をすると、一人の女生徒、アリシア(ジェニファー・コネリー)が食いついてくる。
暗号解読の才能があったナッシュは、対ソ連の暗号解読に時々携わることがあった。普段は何も教えてもらえず帰されるが、ある日、政府機関の担当者、パーチャー(エド・ハリス)がナッシュの元を尋ねてくる。そのまま機密区域に案内され、暗号解読の極秘任務を言い渡される。
その仕事は、新聞や雑誌から、ソ連の新自由軍が使っている暗号を解読することだった。ラジウムダイオードを腕に埋め込まれたナッシュは、その日から研究と並行して暗号解読を行うことになる。
アリシアとの関係
そんなある日、アリシアが研究室を訪ねてくる。授業することを忘れたナッシュを呼びにきたアリシアは、ナッシュをご飯に誘う。
二人はデートをするが、ナッシュはその最中に人の視線を感じて落ち着かない。そんなナッシュの様子を見たアリシアは庭に行こうと提案し、ナッシュに貸したハンカチを「幸運のお守りにして」と渡す。その後、星を見ながら話をした二人は、そのままキスをする。
ナッシュとアリシアは関係を持つようになるが、ナッシュはなかなか結婚に踏み切れない。だが、久しぶりに再会したチャールズや、チャールズの姪と話をする中で、アリシアと結婚する決意を固める。アリシアの誕生日にプロポーズをし、二人は結婚式を挙げた。
だが、結婚式でもナッシュは誰かの視線を感じていた。
狙われたナッシュ
事件が起きたのは、ナッシュとアリシアが結婚してからしばらくした頃だった。任務の直後パーチャーに無理やり車に乗せられたナッシュは、銃撃に遭ってしまう。幸いナッシュの命に別状はなかったものの、家に帰ったナッシュは部屋に鍵をかけて閉じこもり、アリシアと喧嘩になる。
数日後、車の音がするたびに怯えるナッシュに、パーチャーは落ち着くように諭す。だが、「妻が妊娠した。任務から降りる」とナッシュが言うと、パーチャーの態度は一変する。「仕事を続けないのであれば、ソ連側に君の名前をバラす」と言うパーチャーに、ナッシュの恐怖はピークを迎える。
アリシアを言いくるめ、実家に帰らせるナッシュ。その後、ハーバード大での講義のときに、ナッシュは事情をチャールズに相談しようとするが、講義の時間になってしまう。そして講義をしている最中、ナッシュは講堂の後ろにいる敵に気がつき、逃げ出す。
ナッシュは逃げ出すが、精神科医を名乗るローゼン(クリストファー・プラマー)という男に麻酔を打たれて捕まる。起きると、ナッシュは椅子に縛り付けられていた。さらにチャールズに裏切られたことを悟り、ナッシュはチャールズを罵るが、ローゼンは「そこには誰もいない」と告げる。
ナッシュは統合失調症で、チャールズとパーチャーの幻覚を見ていたのだ。
アリシア、真相を知る
ローゼンから事情を聞いたアリシアは、すぐにはローゼンを信じられない。だが、ローゼンを疑いつつも、真相について調べようとするアリシアは、ソルとベンダーに職場まで案内してもらう。ナッシュの仕事部屋の壁には無数の新聞記事が貼り付けられ、文字が書き込まれていた。
ソルとベンダーも「秘密の司令を受けてはいるようだったが、本当かはわからない」と話す。アリシアはナッシュの言う「機密区域」を訪れるが、そこは荒廃していた。そしてナッシュが日々解読結果を届けていたポストを確認すると、ナッシュの投函はすべて未開封のまま放置されていた。
ナッシュと面会したアリシアは再会を喜ぶも、ナッシュが「盗聴されているかもしれないが、全部話したい」と言い出すと表情を曇らせる。「パーチャーはいない、あなたの出した手紙も全部未開封。あなたが見ていたのは幻覚なの」と語るアリシアに、ナッシュは部屋を飛び出してしまう。
病室に戻ったナッシュは自らの腕をえぐり、「チップがない」と呆然とした。そのままベッドに拘束され、統合失調症の治療を受ける。激しく痙攣するナッシュから思わず視線をそらすアリシアに、ローゼンは「自分の思い出が実は存在しなかったというのは、当人にとっては地獄だ」と語った。
退院と投薬治療
ナッシュが退院したある日、アリシアは子どもを連れてプリンストン大を散歩していた。プリンストン大では、かつてのナッシュのライバル、ハンセンが学部長を勤めている。ソルはアリシアを心配するが、「結婚した頃の彼を思い出すと、私が愛した彼が現れる。それで充分」と語る。
ソルがナッシュに会いに行くと、ナッシュはリーマンの仮説を解いていた。「これを解けば大学に復帰できる」と語るナッシュは、「でも、薬を飲むと頭がぼやける」と表情を曇らせる。ソルは「数学以外のことだってあるだろ」とナッシュに無理をしないように諭す。
だが、ナッシュは屍のようだった。薬を飲むと、数学にも取り組めず、赤ちゃんの世話もうまくいかず、はてには自分を求めてくれるアリシアにも応えられない。アリシアはヒステリックになり、鏡を割ってしまう。それ以来、ナッシュは薬を飲まなくなった。
再発
ある日、ナッシュの元に再びパーチャーが現れる。ナッシュが抱いた疑問に答え、自分が幻覚ではないと主張するパーチャー。ナッシュはそれを信じてしまい、裏庭のオンボロ小屋にこもって暗号を解くようになる。
そして、ある雨の日、アリシアは誰かが小屋に立ち入った形跡があることから、ナッシュの幻覚が再発していること、小屋で「解読」に取り組んでいることに気がつく。悲鳴をあげてナッシュの元に走ったアリシアは、ナッシュが危うく子どもを溺死させるところだったことにさらに絶叫する。
ローゼンに電話をかけようとするアリシアに、ナッシュは「チャールズが子守をしてくれていた」と弁解する。パーチャーは「アリシアを殺せ」とナッシュに迫るが、ナッシュはパーチャーの撃った銃弾からアリシアを庇う。だが、アリシアにはそれが、ナッシュが襲いかかってくるように見えた。
子どもを連れて家を出たアリシアを、ナッシュは追いかけることができない。そうしている間にも、パーチャーやチャールズ、チャールズの姪がナッシュを追い詰める。混乱して立ち尽くしていたナッシュだったが、チャールズの姪がなぜか年をとっていないことに気がつき、幻覚だと自覚する。
呼び戻したアリシアの前で、ナッシュはローゼンに「なぜ薬を飲まなかった」と問い詰められる。「薬を飲むと勉強もできない、世話もできない、そして妻を拒んで傷つけた」と話すナッシュに、アリシアは驚いた顔を見せる。
ローゼンは入院治療や違う薬の服用を提案するが、ナッシュは拒否する。「自分なりの解決方法を見つける」と話すナッシュだが、アリシアには実家に帰るように勧める。アリシアは逡巡するものの、「私はあなたを信じたいの」と、最終的にはナッシュの元に戻った。
ナッシュとアリシアの奮闘
二ヶ月後、ナッシュはプリンストン大学に向かい、ハンセンに「自分をプリンストン大学に置いてくれないか」と頼む。ハンセンはナッシュに幻覚症状がしっかり残っているにも関わらず、快く承諾する。幻覚と会話するナッシュを周囲はからかうが、それでもナッシュは懸命に大学に通った。
ある日、話しかけてくるチャールズに、ナッシュは「君はいい親友だった、だがこれっきりだ」と別れを告げる。その後、授業をナッシュが受けようとすると、一部始終を見ていた教授は、「光栄です、ナッシュ教授」と、ナッシュを受け入れる。
20年後、いつものように図書館で研究をしていたナッシュに、一人の生徒が話しかける。かつての自分にどこか似ている生徒の面倒を見ているうちに、ナッシュの周りには若い生徒が集うようになり、ナッシュは図書館で自主的に人を教えるようになった。
ハンセンは、アリシアを連れてくる。アリシアはその様子を見て、思わず涙ぐんでしまう。
後日、ナッシュはハンセンに話しかける。「プリンストン大学で教鞭をとりたい」と話すナッシュに、ハンセンは妄想の様子について聞く。それに対し、ナッシュは「永遠に消えないが、無視し続けてればそのうち諦める。人間は皆過去に取り憑かれているだろう」と返した。
ノーベル賞、受賞
それからさらに15年、ナッシュはプリンストン大学で教え続けていた。ある日、トマス・キングと名乗る男がナッシュを訪ねてくる。ナッシュがノーベル賞候補に上がったというのだ。ナッシュが若い頃に考えた数々の理論は、今や世界中で使われていた。
二人は学内のレストランで話し合う。賞には実は外聞も大切だと話すトマスに、ナッシュは自分が統合失調症であることを明かし、遠回しに自分が受賞にふさわしくないことを告げる。トマスが何も言えなくなっていると、ひとりの男が動いた。
男はナッシュの机にペンを置く。それに続いて、多くの人がナッシュの机を訪れ、ペンを置いた。「来てくれてありがとう、ナッシュ教授」と口々に言葉をかけられたナッシュは、「驚いたな」と、静かに呟いた。
ナッシュはその年のノーベル数学賞を受賞する。受賞スピーチで、ナッシュはアリシアへの感謝を語り、アリシアからかつてもらったハンカチをそっと振って見せた。
『ビューティフル・マインド』の感想
自分の人生を構成していた大切なものが、もし、本当は存在していなかったら?
似たようなテーマは「トゥルーマン・ショー」でも扱われていましたが、本作はほぼ全編を通してナッシュの視点で映画が進む分、真相にたどり着いたときに、その恐怖感を強く感じました。自分が命をかけた仕事も、大親友も、ナッシュにとっては幻覚でしかなかったのです。
幻覚の中身には、ナッシュの切なる願いが現れているように感じます。ナッシュは映画冒頭で「複数が勝ちを分かちあえば、敗者は出ない。軍事に影響を与えられる」と語っています。人の命を救うこと、そして友達と語り合うことを、ナッシュは夢見たのではないでしょうか。
だからこそ、その幻覚に何度も話しかけられながらもじっと耐え、ついには教壇に立てるまでに折り合いをつけられるようになるナッシュの姿にも心が震えます。特に最後の、人々がペンを置くシーンには涙が止まりませんでした。
実話に基づいた丁寧な世界の描写に、心をわしづかみにされる一作です。ぜひご覧ください。
『ビューティフル・マインド』の視聴方法
『ビューティフル・マインド』はDVDの購入やレンタル、U-NEXTやAmazonプライムビデオなどの動画配信サービスで視聴することができます。
2020年6月現在、『ビューティフル・マインド』を視聴できるサービスは以下の通りです。
サービス名 | 配信状況 | 月額料金 |
---|---|---|
U-NEXT | 見放題 | 1,990円 |
Hulu | 視聴不可 | 1,026円 |
Amazonプライムビデオ | 見放題 | 500円 |
Netflix | 見放題 | 800円 |
FODプレミアム | 視聴不可 | 888円 |
dTV | 有料レンタル | 500円 |
dアニメストア | 視聴不可 | 400円 |
TELASA | 見放題 | 562円 |
Paravi | 視聴不可 | 925円 |
NHKオンデマンド | 視聴不可 | 990円 |
TSUTAYAプレミアム | 見放題 | 1,100円 |
Disney+ | 視聴不可 | 770円 |
DAZN | 視聴不可 | 1,750円 |
- 見放題無料レンタル:会員であれば無料で視聴・レンタルできます。
- 有料レンタル:会員であってもレンタル料金が発生します。
- 視聴不可:お取り扱いがありません。
補足:統合失調症とは
ナッシュが罹患していた「統合失調症」という病気は、幻覚・幻聴・妄想などが主な症状となる精神疾患です。100人に1人弱がかかる、頻度の高い病気と言われています。
本作で描写されている1950年代には「不治の病」というイメージがありましたが、現在では服薬などで治る確率が向上しています。そのため現在は、急な断薬はあまり良いこととはされていません。事情がある場合は医師と相談し、薬の量を調整するのが一般的です。
ナッシュは周囲のサポートにより、徐々に回復していきました。現在もこういった周囲の理解と手厚いケアは非常に大切だと言われています。
[出典:厚生労働省ウェブサイト]